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第044-0話 保健室監視

Penulis: 百舌巌
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-20 11:03:57

アオイのアパート。

 ディミトリはアオイの話を聞いていた。ストーカー男の事故を調査しているという男の事を相談されていた。

「背後関係を調べるって…… 何か怪しい所があるの?」

「私の住所と勤務先をどうして知っていたのかを調べて欲しいの」

「妹さんの住所とかは知られているの?」

「ええ、最初は妹の所に行って次に私の所に来たと言っていた……」

「名刺とか貰った?」

「これがそう……」

 アオイはディミトリに名刺を一枚見せた。街中の名刺屋で一番安い値段で作ったような奴だ。

 そして、書かれている会社の名前は聞いたことも無い物だった。

(うん、怪しい……)

「ネットで検索しても該当する会社は無かったわ」

 アオイは自分でも色々と調べてみたが分からなかったそうだ。会社の電話番号に掛けて見ると相手の男に繋がるのは確認していた。

(電話の転送サービスだろうな……)

 事務所すら持てない弱小企業が、電話番してもらう為に電話代行サービスを利用する事が多い。

 この男もそのサービスを利用しているのだろう。

「ストーカー男の家族が知っていたとかじゃないの?」

「妹のことが有って、私の家族も男の家族も離散してしまったわ」

「じゃあ、住所を辿って来たとか……」

「私の実家は更地になってしまっているし、母以外に私達の状況を知っている人はいないかったはず……」

 妹が拉致監禁された上にレイプ被害に会った事でアオイの両親は離婚。アオイの母親は自分の実家に帰ってしまっている。

 今では半年に一度くらいしか連絡は取り合わないそうだ。父親の現況は不明。

 ストーカー男の実家も同じ様に離散してしまっている。だから、接点はどこにも存在しないはずだ。

 だから、ストーカー男が死亡しても気にかける人間はいない事になる。

 ところがストーカー男は出所して暫くしてから会いに来たらしい。どうやってアオイ姉妹の居場所を知ったのかは不明だった。

「死んでからも付き纏うなんて……」

 アオイは嘆いてしまっていた。

「その調査男は頻繁に接触してくるの?」

「明日、会いたいと言ってきたの……」

「ふむ……」

 アオイは次の日の昼間に、問題の調査男とファミレスで待ち合わせをしてるという。

「話すことは無いと言えば良いんじゃない?」

「電話で何度も言ってるけど諦めてくれないのよ……」

「病院の院長とか大人の男の人に説得してもらう
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    「ぐあっ!」「うわっ!」 ジャンたちは急な発光に気を取られてしまった。 一方、コインを指に挟んだまま発火させた男は、親指と人差指が半分無くなってしまっていた。急激だったので指を放すタイミングを失ってしまっていたのであろう。「!」 ディミトリは相手が油断した空きを逃さなかった。反撃の開始だ。 相手のベルトに刺さっていた銃を奪い、ジャンたちに向かって連続で射撃した。正確に命中する必要は無い。相手の視界が回復する前に行動不能になってほしいだけだ。 弾丸はジャンや手下たちの腹に命中したようだった。 それから、後ろに居た男の頭を撃ち抜いた。椅子に座ったままだったので、顎の下から頭を撃ち抜くような感じだ。 男の脳みそが天井に向かって飛散していく。 室内に居た全員が倒れたすきに、ディミトリはナイフを使って手足の結束バンドを外した。それからジャンの手下たちのとどめを刺して回った。 ジャンは腹に当たっていたと思ったが逃げてしまっていた。中々に逃げ足が速い男だ。 しかし、ディミトリは追いかけようとはせずに博士の所に歩み寄った。 博士にも弾幕の一発が当たっているらしく肩から血を流していた。「俺の記憶とやらは何処にあるんだ?」「わ…… わしの研究所だ……」 いきなりの展開に腰が抜けてしまったのか、博士は床に座り込んだままだった。 荒事をするのは得意だが、されるのは苦手なタイプなのだろう。「研究所の何処だ?」「……」 博士は質問に黙り込んでしまった。ディミトリは博士の傍に座り込んで顔を覗き込んだ。だが、博士は黙ったままだ。 ディミトリは銃痕に指を入れてかき回してやった。博士の口から鋭い悲鳴があがる。「私の研究室にあるサーバーの中だ。 Q-UCAと書かれているハードディスクの中身がそうだ!」「ふん」 知りたいことを聞いたディミトリは立ち上がった。(さて、ジャンの奴を逃しちまった……) 自分の事を散々追いかけ回した彼には、是非とも銃弾を大量にプレゼントしてやりたかった。 だが、ここにはジャンの手下が沢山居るはずだ。相手のテリトリーで戦うような間抜けではない。「怖いお友達が来る前に逃げ出すか……」 ディミトリは倒れているアオイを助け起こして部屋を出ていった。 もちろん、博士も連れて行く事にした。聞きたいことが他にもあるからだ。 ディミ

  • クラックコア   第075-2話 白いコイン

    「早くしないと君の魂はタダヤスから消えてしまうよ……」「……」 そう言うとニヤリと笑った。それでもディミトリは黙ったままだ。「自白剤を使いますか?」 ジャンは時間が惜しいので、さっさと自白させようと薬を使うことを提案してきた。 自白剤とは対象者を意識を朦朧とした状態にする為の薬剤だ。 人は意識が朦朧としてくると、質問者に抗することが出来なくなり、機械的に質問者の問いに答えるだけとなる。 しかし、副作用も酷く自白の中に対象者の妄想が含まれる場合も多いので信頼性が低くなってしまう。捜査機関などでは使われることが少ない薬剤だった。「そんな事をしたら折角の記憶が無くなるよ?」 博士が素っ気無く答えた。彼からすれば記憶に関する障害をもたらす薬品など論外なのだろう。 それは自分の研究成果が台無しになる事を意味する。金も研究成果も欲しい欲張りな性格なのだろう。「それに彼は拷問に対処するための訓練を受けているんだよ」 博士はディミトリの軍にいた時の経歴も掌握していた。「その女の子を痛めつけ給え、彼はきっと助けようとするだろう」 博士がアオイを指差した。恐らくモロモフ号の事も知っているのだろう。 アオイには特別な思い入れは無いが、自分の所為で他人が痛めつけられるのは気分の良い物では無いのは確かだ。 やっと出番が来たと思ったジャンはアオイをディミトリの前に連れてくる。 そしてジャンはおもむろにアオイを殴りつけた。殴られたアオイは転倒してしまう。「やめろっ!」「話す気になったかね?」 博士はニヤニヤしたまま聞いてくる。ジャンも手下たちも同様だった。「彼女は関係無いだろうがっ!」「相手のウィークポイントを責めるのが尋問のイロハだろ?」 そう言うとジャンはアオイの頬を再び殴りつけた。アオイの鼻から出る鼻血の量が増えてしまった。「分かった、分かった…… 教えるから辞めてくれ」 ディミトリが仕方がないので暗証番号を教えると伝えた。 ジャンと博士はお互いの顔を見てニヤリと笑った。 ジャンが手下に顎で指示をすると、手下はノートパソコンをディミトリの前に持ってきた。「手を動かせるようにしろ」 ノートパソコンを前にしたディミトリは言った。操作する為だ。「駄目だね。 お前さんの手癖の悪さはよく知ってるよ」 ジャンがニヤニヤしながら言った。「

  • クラックコア   第075-1話 初老の男性

    「俺たちに任せてくれ! 三十分で吐かせて見せます!」「ああ、タップリ目に痛い目に合わせてやりますよ!」 部下たちが口々に言い募った。仲間を殺られたのが悔しいらしい。 それに、部下たちはディミトリの正体を知らないようだ。見た目が生意気な小僧に騙されているのだろう。「バカヤロー。 ぶん殴って白状する玉じゃねぇんだよ!」 ジャンは部下の方に向いて怒鳴った。 ディミトリは元兵士で拷問への対処法を熟知しているからだ。もちろん、限界が有るのだろうが、それを確かめるには膨大な時間を浪費しなくてはならなくなる。 ジャンはディミトリの正体を知っているので、無駄な時間は使いたくないと考えていたのだ。「あの女を連れてこい!」 部屋の外から女が一人連れて来られた。片腕を乱暴に掴まれて部屋の中に引き摺られるように入ってきた。 それはアオイだ。やはり捕まってしまっていたようだった。 アオイが連れてこられるのと一緒に初老の男性が入ってきた。「やあ、若森くん。 相変わらず元気そうだね」 彼はニコニコしながらディミトリに話しかけて来た。「君の活躍は色々と聞いてるよ」「……」「それともデュマと呼んだ方が馴染みが良いかね?」 彼はディミトリの渾名すら知っていた。「アンタ、誰?」 ディミトリは興味無さそうに聞いてみた。本当は興味津々だが、この相手に弱みを見せるのは拙いと感じているからだ。 情報の引き換えと同時に何を要求されるのか分かった物では無い。油断ならない相手だと判断したのであった。「私の名前は鶴ケ崎雄一郎(つるがさきゆういちろう)」 初老の男は長机の上にあるディミトリの私物を手に取って眺めながら答えた。「君の手術を担当した脳科学者さ……」 彼がディミトリに脳移植をした博士だったのだ。「君とは手術が終わった時に一度逢ってるんだが…… 覚えてないみたいだね」「……」 そう言ってニコッリと微笑んだ。ディミトリは黙ったままだった。本当に記憶に無いからだ。 だが、想定内であったのだろう。博士はニコニコとしている。ディミトリの反応を楽しんでいるようであった。「さて、君には質問が幾つか有るんだが……」 博士はディミトリの傍に立ち、見下ろしながら質問を始めた。「さて……」「聞く所によると君は麻薬組織の売上金。 百億ドル(約一兆円)を掻っさらったそうじ

  • クラックコア   第074-0話 派手なシャツの男

    何処かの倉庫。 ディミトリは倉庫と思われる場所に一人で居た。 その顔は腫れ上がっており、片目が巧く見えないようだった。口や鼻から出た血液は乾いて皮膚にへばり付いている。 恐らく仲間をやられた報復で、散々殴られていたようだ。(くそっ……) 気が付いたディミトリは腕を動かそうとした。だが、出来ないでもがいていた。 安物っぽいパイプ椅子に両手両足を拘束されていた。両手両足をそれぞれ別のパイプに拘束バンドで止められているのだ。 これでは解いて逃げ出すのに時間が掛かり過ぎてしまう。 彼の逃げ足が早いことを、灰色狼の連中は知っているのだろう。(身体が動かねぇな……) 部屋には中央に灯りが一つだけ点いていた。壁際に監視カメラがある。室内に見張りが居ないのはこれで監視しているのだろう。 入り口には長机が置かれてあり、その上にディミトリの私物が並べられている。 暫くすると入口のドアが開いて何人かの男たちが入ってきた。 ディミトリが意識を取り戻したのに気が付いたらしい。「コイツを殴るなって言ったろ?」 派手なシャツを着た男が、ディミトリの様子を見て怒鳴った。ディミトリが怪我をしているのが気に入らないらしい。「すいません……」「コイツにケンジを殺られたんで…… つい……」 何だか派手なシャツを着た男と、スーツ姿の男二人がやり取りをしている。 ケンジとは誰なのか分からないが、ディミトリが殺った奴の一人であるのは間違いない。 シャツの男がコイツラの頭目だろう。(じゃあ、コイツが張栄佑(ジャン・ロンヨウ)か……) ジャンは灰色狼の頭目だとケリアンが言っていた。そして、目的の為には手段を選ばない男だとも聞いている。 性格が冷酷で厄介な相手であるのは間違いない。「特に顔を殴るのは良くない……」 ジャンは座らされているディミトリの周りをゆっくりと歩きながら言った。ディミトリの怪我の具合を確認しているのだろう。 見た目は酷いが死ぬことは無さそうだ。 ジャンが歩く様子をディミトリは目で追いかけながら睨みつけていた。「もし記憶が飛んでいたら、今までの苦労が水の泡に成っちまうからな」 そう言って笑いながらディミトリの頭を掴んで自分に向けさせた。そして顔を近づけてディミトリの目を覗き込んだ。 まるで相手の深淵を汲み上げようとするような鋭い目つきだ。

  • クラックコア   第073-0話 狐のアイマスク

     その場に居たパチンコの客たちは、一瞬に呆気に取られてしまっていた。だが、直ぐに店内は悲鳴と怒号に包まれていく。「え?」「ええ!?」「ちょっ!」「ああーーーっ! 俺のドル箱に何をする!」 誰かが大声で喚いていた。それでも、彼らはパチンコのハンドルを握る手を緩めない。 リーチ(大当たりの前兆)が掛かるかも知れないからだ。緊急事態より眼の前にある台の去就の方が大事なのだろう。 普通の人とは感覚が違うのだからしょうがない。 そんな喧騒とは別に運転席でモゾモゾと動く影があった。「痛たたた……」 ディミトリだ。彼は無事だったようだ。すぐに自分の両手を握ったり開いたりして怪我の有無を確認していた。 足の無事を確かめようとして、顔が歪んでしまった。どうやら打ち所が悪い部分があったようだ。(ヤバイ…… 早く逃げないと……) ふと見るとディミトリは自分の銃の遊底が、引かれっぱなしになっているのに気がついた。弾丸を撃ち尽くしたのだ。 予備の弾倉も使い切っている。(コイツは何か得物を持ってないか……) 助手席で事切れている男の身体を触ってみた。すると男の懐にベレッタを見つけた。弾倉はフルに装填されている。 右手が銃床を握っているので取り出そうとしたのだろう。乗り込もうとした時に銃撃したのは正解だったようだ。 ディミトリは銃を奪い取ってから、予備の弾倉を探したが持っていなかった。(まあ良い。 これだけでも闘える……) そして、懐から狐のアイマスクを取り出して被った。(くそっ、玩具のアイマスクしか無いのかよ……) 本当は目出し帽で顔を隠したかった。だが、狐のアイマスクしか無かったのだ。 これはケリアンが手配してくれた車のシートポケットに入っていた物だ。恐らくシンウェイの物であろう。(無いよりマシか……) パチンコ店の至る所に監視カメラがあるのは承知している。それらの監視の目を誤魔化す必要が有るのだ。 これだけの大騒ぎを起こしたのだから、警察が乗り出すのは目に見えている。いずれバレるだろうが、今はまだ警察相手にする余裕が無い。時間稼ぎが目的だ。(時間を稼いで楽器ケースにでも隠れて外国に逃げるか……) ディミトリは足を少しだけ引き摺るように階段を下りていった。最早、痛みがどうのこうの言ってられない。 急がないと駐車場ビルから、奴らがすぐ

  • クラックコア   第072-2話 駐車場から脱出

     車は慌ててハンドルを切り替えしたが間に合わない。そのままフォークリフトに突っ込んでしまった。 ディミトリは咄嗟にシートベルトに腕を絡めて身構えた。こうしないと衝突のショックで車外に投げ出されてしまうからだ。 運転手は自分のシートベルトをしていなかったようだ。彼はフロントガラスに頭から突っ込んで窓枠ごと外に投げ出されていった。(畜生…… ツイてないぜ……) ディミトリは車の中からヨロヨロと抜け出した。追手の車が盛んにタイヤの音を響かせながら近づいて来ているからだ。 投げ出された運転手は跳ね飛ばしたフォークリフトの傍に倒れている。運転手の肩を揺さぶってみたが、彼は何も言わなくなっていた。 最初に現れたのは白い方の車だった。ディミトリは柱に隠れて立ち銃を構えた。 白い車の運転手は速度を緩めずに迫ってきた。そして運転席の窓から銃を突き出している。(それは無理だ) ディミトリは運転席に向かって引き金を引いた。三発程撃つと運転席が血で染まり、車は停車していた車を巻き込んで停車した。 その脇を黒いSUVはすり抜けてディミトリに迫ってきた。(邪魔っ!) ディミトリは車に向かって銃を撃つと同時に停車した車に向かって走り出した。二発は当たったようだが何事もなく走っている。 黒いSUVは壁際まで走って反転しようとしていた。 ディミトリが車の中を覗き込むと、運転手は絶命しているらしかった。助手席にもうひとり男が居た。怪我をしているらしく呻いていた。時間が無いので銃撃して永久に黙らせてやった。(お前も邪魔っ!) 運転席から運転手の死体を外に放り出すと乗り込んで走らせる。バックミラーを見ると直ぐ傍まで黒いSUVはやって来ている。 車を運転しながら逃走経路を色々と考えたが名案が浮かばない。その間にも黒いSUVから銃弾が飛んできている。 駐車場ビルの同じ階を二台の車は競り合うように走り続けた。 もちろん、ディミトリも銃で反撃している。車のタイヤの軋む音と銃の発射音がビル内に鳴り響いていた。(くそっ、サプレッサーを外したのに全然当たらないっ!) 追跡している車を銃撃しているが肩越しなので当たらない。そこでサイドブレーキを引いて車をサイドターンさせた。 そして、ドアを開けたままバックで下がり、停めてあった車でドアを弾き飛ばした。(よっしゃ、これで銃で闘

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